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福岡地方裁判所 昭和54年(行ウ)7号 判決 1982年2月25日

原告 加藤幸男

被告 福岡税務署長

主文

一  原告の第一次的請求を却下する。

二  被告が原告に対し昭和五二年九月一三日付けでした原告の昭和五一年分所得税についての更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の処分及び同年七月九日付けでした同所得税についての過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(第一次的請求)

原告の昭和五一年分所得税について、昭和五二年六月二八日被告に対し原告名義をもつてなされた修正申告が無効であることを確認する。

2(第二次的請求)

主文二項と同旨

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1(本案前の答弁)

原告の第一次的請求及び第二次的請求のうち被告が原告に対し昭和五二年七月九日付けでした原告の昭和五一年分所得税についての過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分をいずれも却下する。

2(本案の答弁)

原告の第一次的請求及び第二次的請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(第一次的請求)

(一)  原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、被告に対し、別表(一)の「<ハ>修正申告」欄記載のとおり、総所得金額を一億〇、九三六万二、二九三円、納付すべき税額を三、三三八万円とする原告名義の修正申告書が提出された。

(二)  右修正申告は、原告が確定申告書の提出を委託した松岡正一公認会計士事務所の事務員である高木昌代が、被告職員から度々修正申告書提出の督促を受けたので、原告との連絡がとれないまま、オリエント貿易株式会社の経理部長である安部義明と相談のうえ作成提出したもので、原告の知らないものである。

(三)  また、被告が右修正申告書の提出を督促した理由は、原告が福岡方面等へ旅行した際に、サンライズ貿易株式会社(以下、サンライズ貿易という。)が原告に支出した別表(二)の(1)及び(2)記載の旅費交通費名目の金員合計五二六万三、七五九円のうちの五二四万八、七五九円(以下、単に、本件旅費という。)を同社の業務のために必要とは認められないとして否認し、これを原告の給与所得と認定した(名古屋国税局及び東京国税局はこれを原告に対する貸付金と認定し、さらに、豊島税務署はこれを賞与と認定した。)ことにあるが、原告は、被告が、修正申告書の提出を督促した理由が、本件旅費の否認に基づくのであれば、右修正申告に応ずる意思はなかつたものである。

よつて、右修正申告には重大かつ明白な瑕疵があるから、その無効であることの確認を求める。

2(第二次的請求)

(一)  原告は、昭和五二年三月一五日、被告に対し、原告の昭和五一年分所得税について、別表(一)の「<イ>確定申告」欄記載のとおり、総所得金額を一億〇、五二五万二、六二八円、納付すべき税額を三、二五六万一、二〇〇円とする確定申告をした。

(二)  原告は、昭和五二年六月二日、右所得税について、被告に対し総所得金額を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一一万五、七〇〇円とする旨の更正の請求をしたが、この更正の請求はおおむね認められ、被告は、同月一五日、別表(一)の「<ロ>更正処分」欄記載のとおり、総所得金額を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一四万六、四〇〇円とする更正処分をした。

(三)  ところが、同月二八日、前記1(第一次的請求)の(一)、(二)記載のとおり、原告の関与しない間に、原告名義の修正申告書が提出された。

(四)  被告は、同年七月九日、原告に対し、右修正申告書の内容に対応する増差税額一二三万三、六〇〇円について、過少申告加算税六万一、六〇〇円の賦課決定処分(以下、本件(一)の処分という。)を行い、同処分は、同月一〇日、原告に送達された。

(五)  原告は、同年八月一〇日、右修正申告書提出の事実を知り、総所得金額を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一四万六、四〇〇円とすべき旨の更正の請求(別表(一)の「<ロ>更正処分」の金額と同じ)をしたが、被告は、同年九月一三日、右更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の処分(以下、本件(二)の処分という。)をした。

(六)  そこで、原告は、本件(一)及び(二)の各処分に対し、同年一一月一四日、被告に異議申立てをしたところ、被告は、同五三年一月二〇日これをいずれも棄却したので、さらに、同年二月二三日国税不服審判所に審査請求をしたところ、同所は、同年一二月二五日、右審査請求のうち本件(二)の処分についての審査請求を棄却し、本件(一)の処分にのついて審査請求を却下した。

(七)  被告が本件(一)及び(二)の各処分をしたのは、前記1(第一次的請求)の(三)記載のとおり、原告が福岡方面等へ旅行した際サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費五二四万八、七五九円を同社の業務のために必要であつたとは認められないとして否認(前記のとおり名古屋国税局及び東京国税局はこれを貸付金、豊島税務署はこれを賞与とそれぞれ認定)し、昭和五一年三月に右金額が原告に賞与として支給されたものとして、原告の昭和五一年分の給与所得金額を五、三四九万七、三七四円と認定したことによるものであるが、原告の同年分の給与所得は四、八七七万三、四九一円であつたから、被告の本件(一)及び(二)の各処分には、原告の所得を過大に認定したうえでなした違法がある。

よつて、右各処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1(修正申告の無効確認を求める訴えの適否)

納税申告は、納税義務者が自己の納税義務の具体的内容を確認したうえ、これを税務官庁に申告することによつて、その申告による納税債務の実現を図るものであつて、右申告行為自体は、納税義務者と課税権者との間に具体的租税債権債務関係を発生させるための前提たる一つの法律要件該当事実に過ぎない。したがつて、納税申告の無効確認を求める訴えは、法律関係そのものの存否(租税債権債務関係の存否)の確認を求めるものではないから、訴えの利益を欠き不適法である。

なお、納税申告は、公法関係における行為ではあるが、私人の行う行為であつて、行政事件訴訟法三条にいう行政庁の公権力の行使といえないことはもとより、右と同視しうる場合にあたるともいえないから、納税申告の無効確認を求める訴えを同条四項の無効確認の訴えとして適法とみることもできないことは明らかである。

したがつて、修正申告が無効であることの確認を求める原告の訴えは不適法である。

2(過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める訴えの適否)

被告が昭和五二年七月九日付けでした原告の昭和五一年分の所得税についての過少申告加算税の賦課決定処分(本件(一)の処分)に対する国税通則法七五条一項一号の異議申立ては、同法七七条一項により、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して二月以内にしなければならないとされているところ、右処分は、昭和五二年七月一〇日原告に送達されているのであるから、原告は、右処分に不服があれば同年九月一〇日までに被告に異議申立てをすることを要したのである。にもかかわらず、本件において、原告が被告に異議申立てをしたのは同年一一月一四日であるから、右申立ては、異議申立期間を徒過した不適法なものであり、国税不服審判所は、翌五三年一二月二五日、そのことを理由として審査請求を同法七五条三項により不適法却下した。

国税通則法一一五条一項本文は、訴えの提起についていわゆる不服申立前置主義を定めているが、この場合、訴え提起に先立つて経由することを要する裁決とは、実体的に不服申立ての理由の有無について判断したものであることを要し、本件のように、不服申立てが不服申立期間経過後にされた不適法なものであつてそれを理由に却下されたような場合には、不服申立前置の要件を具備したものということはできないというべきである。

したがつて、右処分の取消しを求める部分の訴えは、法律の定める訴訟要件を欠くことになり不適法である。

三  被告の本案前の主張2に対する原告の反論

本件(一)の処分に対する原告の異議申立てが異議申立期間を徒過してなされたことは認めるが、加算税は、本税の課税が正当である場合に是認されるべき付随的性質のものであるから、本件のように、本税についての計算根拠が争われており、本税についての請求が認められれば、加算税もその根拠を失うような場合には、論理の当然として右処分も取り消されるべきであるから、その取消しを求めることは適法であるというべきである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1(第一次的請求)の(一)の事実は認める。

2  同1の(二)の事実のうち、被告職員が修正申告書の提出を督促したことは認めるが、原告の知らない間に修正申告書が提出されたとの点は否認する。その余の事実は知らない。

3  同1の(三)の事実のうち、原告が福岡方面へ旅行したこと、被告がサンライズ貿易の支出した本件旅費を否認して原告の所得と認定し、修正申告書の提出を督促したことは認めるが、原告が右修正申告に応ずる意思を有していなかつたとの点は争う。

4  請求原因2(第二次的請求)の(一)及び(二)の事実は認める。

5  同2の(三)の事実のうち、修正申告書の提出が原告の関与しない間になされたとの点は否認し、その余は認める。

6  同2の(四)、(五)、(六)の事実は認める。

7  同2の(七)の事実のうち、被告の各処分に原告の所得を過大に認定してなした違法があるとの点は争う。

五  被告の主張

1  原告は、昭和五一年分の所得税について、昭和五二年三月一五日、別表(一)の「<イ>確定申告」欄記載のとおりの確定申告をしたが、同年六月二日、その申告に誤りがあつたとして、総所得金額を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一一万五、七〇〇円とすべき旨の更正の請求をしたので、被告は、同月一五日、別表(一)の「<ロ>更正処分」欄記載のとおりの更正処分をした。

2  ところが、同月一三日東京国税局管内豊島税務署から回付されてきた通報により、被告は、サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費(別表(二)の(1)及び(2)記載の金員合計五二六万三、七五九円のうちの五二四万八、七五九円)が原告に対する賞与にあたると判断したので、同月二〇日、被告の職員が、右金員について所得の申告をするよう勧奨したところ、原告は、同月二八日、別表(一)の「<ハ>修正申告」欄記載のとおり、給与所得に係る収入金額に本件旅費五二四万八、七五九円を増額し、源泉徴収税額も二三〇万九、四五三円加算して三、〇六一万五、九九〇円とする修正申告書を提出した。

3  そこで、被告は、同年七月九日、右修正申告に伴う増差税額一二三万三、六〇〇円に対し、本件(一)の処分をした。

4  被告がサンライズ貿易の支出した本件旅費を原告の昭和五一年分の所得と認定し、その申告を勧奨した理由及び原告の修正申告提出の経緯は次のとおりである。

(一)(サンライズ貿易の法人税調査について)

(1) 原告は、昭和四二年七月設立された朝日物産株式会社の代表取締役であつたが、同四六年八月同社が解散してサンライズ貿易(当時の商号は株式会社サンライズ)に吸収合併された後は、経営の役職にはついていなかつた。

(2) ところが、サンライズ貿易の昭和四六年四月から同四七年三月までの事業年度の法人税調査において、同社が原告に支出した本件旅費のうちの別表(二)の(1)記載の金員二七七万四、二五九円について、名古屋国税局は、原告は同社の株主ではあつたが、同社の取締役でも従業員でもなく、業務の委任を受けたものではなかつたこと、福岡には同社の支店出張所はなく、原告の出資する同業の株式会社ゼネラル貿易及びオリエント貿易株式会社(以下、それぞれ、ゼネラル貿易、オリエント貿易という。)等があるだけであり、原告の旅行はこれらの会社のためであつたことなどを理由として、右旅費をサンライズ貿易の業務に関係のあるものと認めず、その損金性を否認し、原告に対する貸付金と認定した。

(3) また、昭和四七年四月から同四八年三月までの事業年度の法人税調査において、同社が原告に支出した本件旅費のうちの別表(二)の(2)記載の金員二四七万四、五〇〇円についても、東京国税局は、右(2)と同様の理由で、その損金性を否認し、原告に対する貸付金と認定した。

(4) なお、本件旅費を原告に対する貸付金と認定するについては、サンライズ貿易も自認了承しており、同社は、被告に対し、右金員を貸付金として原告から回収する旨申し出たばかりでなく、その後の法人税申告書においては、直ちに帳簿外の「貸付金」と表示する措置をとつたものである。

(二)(サンライズ貿易の源泉所得税調査について)

(1) 豊島税務署は、昭和五一年八月ころ、サンライズ貿易の源泉所得税調査を行つたが、同社の原告に対する前記旅費否認に伴う貸付金(別表(二)の(1)及び(2)記載の金員合計五二四万八、七五九円)について、長期間経つても原告からの返済が全くない、同社が長期間経つのに決算書に表示せず、帳簿外としている、原告より利息を徴することもしていない、原告に対し返済を請求しうるにもかかわらず、四年余りの間一度も請求をせず、また、請求する意思もなく回収を断念している状態であることなどから、もはやその貸付金債権を放棄したものであり、結局、同社が原告に債務免除の利益を与えたことになると判断し、原告に賞与が支給されたのと同様であつて源泉所得税を課すべき場合にあたると認定した。

また、右の賞与の支給時期については、右調査時にすでに債権放棄の状態にあつたので、その時期に最も近く結了していた昭和五〇年四月から同五一年三月までの事業年度期間中に支給されたものと認定すべきところ、支給日を確定できないため、所得税基本通達の「支払確定日が不明の場合には事業年度末とする。」との取扱いにより、年度末の昭和五一年三月に支給されたものと認定したものである。

(2) なお、税法上の収入金額とは、経済的利益の価額を含むものであり、経済的利益には債権の放棄に伴う債務の免除を含む(所得税基本通達)と解されるところ、こうした債権の放棄がある場合に、一般的には、これを貸倒金と認めたり、贈与と認めたりすることもあるが、本件のように、報酬または給与を受給している者が別途右のような経済的利益を受けている場合には賞与と認定するのが相当である。

(3) その後、豊島税務署は、サンライズ貿易に対し、右賞与の支給について原告から源泉所得税二三〇万九、四五三円を徴収すべき旨の納税告知を行つたが、同社もこの点については異論がなく、右源泉所得税の徴収、納付を済ませたものである。

(三)(修正申告書提出の経緯について)

被告は、昭和五二年六月一三日、豊島税務署から回付されてきた通報により、原告の昭和五〇年分及び同五一年分の所得税について修正申告をする必要を認めたので、同月二〇日、被告の職員である当時の所得税調査担当特別国税調査官付上席国税調査官白石典近から原告の税務代理をしていた松岡正一公認会計士に電話を入れたところ、同人は不在で、使用人の高木昌代が応対に出たので、同人に修正申告書の提出を勧奨したところ、検討する旨の回答があり、その後、同調査官のもとに右高木昌代が原告の関係会社の使用人らしい者を同伴し来訪したので修正申告の必要がある旨説明し、同人らに求められて修正申告の所定の用紙に修正した税額の計算をして手交したところ、同月二八日、原告の記名捺印のなされた右修正申告書の提出がなされたものである。

5  原告は、右修正申告が誤りであつたとして更正の請求をしたが、以上に述べたとおり、右修正申告の内容には何ら誤りはないのであるから、被告が原告の更正の請求に対し本件(二)の処分をしたこと及び右修正申告に伴う増差税額について本件(一)の処分をしたことは正当である。

六  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の事実は、原告が修正申告書を提出したとの点を除き、認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4の(一)の(1)、(2)、(3)の事実は認める。同4の(一)の(4)の事実は争う。

同4の(二)の(1)の事実は認める。同4の(二)の(2)の事実は争う。同4の(二)の(3)の事実は、サンライズ貿易に異論がないとの点を除き、認める。

同4の(三)の事実のうち、昭和五二年六月一三日豊島税務署から原告についての通報が回付されてきたことは知らない。国税調査官白石典近が所得申告勧奨のため、同月二〇日、松岡正一公認会計士事務所に電話を入れたところ、同会計士が不在であつたこと、同会計士の使用人高木昌代が応対したこと、同月二八日に原告名義の修正申告書が提出されていることはそれぞれ認めるが、その余は争う。

5  同5については争う。

七  被告の主張に対する原告の反論

1  原告がサンライズ貿易から支給を受けた本件旅費五二四万八、七五九円は、福岡方面等に旅行した旅費交通費として現実に支弁されており、原告の財産を構成していないのであるから、右旅費を原告の所得と認定するのは不合理である。

2  被告は、原告がサンライズ貿易から支給を受けた本件旅費を同社の業務に関係がないとしてその損金性を否認したが、右認定は、次のような理由から不合理である。

(一) 被告は、まず、原告がサンライズ貿易の取締役でも従業員でもなく、また、業務の委任を受けたものでもないので、右旅費は同社の業務に必要なものであつたとは認められないと判断しているが、税法上損金扱いとする経費の対象としているのは、取締役とか従業員とかの形式的名称を有しているかどうかではなく、法人税法二条一五号の「役員」に当たるかどうかであるから、原告が右「役員」に当たるかどうかを検討することなく、被告が、形式的に取締役、使用人、業務委任者のいずれにも当たらないとしてその損金性を否認したのは、法人税法の総則的定義たる「役員」の解釈を無視したものである。すなわち、法人税法二条一五号によれば、「役員」とは、「法人の取締役、監査役、理事、監事および清算人ならびにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。」と規定されており、右の「法人の経営に従事している者のうち政令で定めるもの」とは、純然たる法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事している者すなわち相談役、顧問、その他これらに類する者でその法人内における地位や職務等からみて他の役員と同様実質的に法人の経営に従事していると認められる者が含まれると解されるところ(法人税法施行令七条一項、法人税基本通達、なお、旧法人税通達では「総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長、副組合長その他これらの者に準ずる者で取締役または理事でないものが該当するとされていた。)、原告は、「会長」または「オーナー」としてサンライズ貿易の実質的経営に従事していたものであるから、右にいう「役員」に該当するというべきである。

なお、原告は、昭和四七年三月三一日現在及び同四八年三月三一日現在家族らの持株と合わせてサンライズ貿易の全株式の過半数を所有していたが、このことは原告が同社を実質的に支配していたことを示しているばかりでなく同社の経営上の重要事項の意思決定が必ず原告の承認のもとに統轄されていたこと、外形的事実として原告が執務するときは社長室を使用しており、また、乗用車も同社所有のリンカーンを使用していたことも、原告が同社の実質的経営に従事していた事実を裏付けるものである。

被告は、サンライズ貿易の昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度における同社に対する法人税額等の更正通知書においては、原告を「職制上会長、法人税法施行令七条規定の役員に該当」と判定しているだけでなく、原告に使用人部分があることを認め、その部分について比準者を矢島財務部長とする賞与の加算もれの更正をしているが、このように、被告が原告に対する経済的利益たる賞与認定をする際には原告を法人税法上の役員(または使用人)と認定しながら、他方、その原告に対し、サンライズ貿易が旅費を支出しても同社の業務のためのものとしては認めないというのは、ご都合主義の理論であつて、とうてい納得できない。

被告は、また、原告が同社から何らの業務委託を受けていなかつたと主張するが、原告は、同社から毎月三〇万円の報酬の支給を受けて関係会社間の統轄を行つていたものである。

(二) さらに、被告は、福岡には、サンライズ貿易の支店出張所はなく、原告の出資するゼネラル貿易等の関連会社があるだけであり、原告の福岡方面への旅行はこれら関連会社のためのものであつたことなどを理由として、サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費を業務に関係がないものとしたが、ゼネラル貿易、オリエント貿易はいずれも商品先物取引業を営む同業者であり、商品先物取引業は、世界の商品生産状況、投資家の動向等に大きく左右されるばかりでなく、国内にあつても、輸入状況、商品の生産状況、商品の市況荷動き、投資家特に仕手筋の動き、競業者の動き、顧客の状況等、実に複雑な要素がからみ合うため、その営業を円滑に行うためには、情報の収集、交換、人事交流等が必要であり、しかも、こうした活動は、サンライズ貿易自身にとつて直接または間接に利益をもたらすものである。そのため、同社は、ゼネラル貿易、オリエント貿易を含む国内八社、海外二社からなる「朝日企業グループ」を組織し、右ゼネラル貿易、オリエント貿易とも、その同じ構成員として不断に緊密な業務連携を行つていたほか、その営業資金を融通するなどその相互の発展を図つていたものであつて、これら関連会社への業務指導あるいはこれらの会社との業務上の連絡、情報交換等のために原告が福岡方面へ出張するについて、サンライズ貿易がその旅費交通費等を負担したのは当然のことであつた。

にもかかわらず、被告が、福岡に同社の関連会社のあることを認めながら、これら関連会社への原告の旅行を同社の業務に関係がないとして否認したのは、近代経済社会の機構を無視し、営業者の営業に関連する社会的活動を否定するものであつて不当である。

3  被告は、さらに、名古屋国税局及び東京国税局が本件旅費を原告に対する貸付金と認定したことを是認しているが、右認定も、次のとおり不合理である。

すなわち、仮に、本件旅費がゼネラル貿易等の関連会社のためのものであるとしても、サンライズ貿易は、前記のとおり、右関連会社とは同じ「朝日企業グループ」の構成員として緊密な業務連携を行つているのであるから、関連会社のための費用をサンライズ貿易がその経理から支出し、これを同社自身の損金としたとしても、関連会社が右費用を損金として二重に計上しない限り国の租税収入全体としては何らの損害も生じないはずであつて、その損金性を否認する必要はないと考えられるばかりでなく、仮に、そうした便宜的な処理を認めず、右費用については関連会社との間で合理的に配分すべきであるとしても、その会計的処理としては、サンライズ貿易の関連会社への立替金と認定してサンライズ貿易の行為計算上その損金性を否認すれば足り、わざわざ原告個人に対する貸付金と認定する必要はなかつたはずである。

また、もし、右旅費を貸付金と認定するにしても、それは、本来ゼネラル貿易等の関連会社の負担すべき費用であるから、原告個人に対する貸付金ではなく、これら関連会社に対する貸付金とするのが適切であつたというべきである。

さらに、被告が、本件旅費についてその損金性を否認し、原告の所得と認定するのであれば、その所得の帰属年度は、否認年度である昭和四六年分及び同四七年分とすべきであつて、昭和五一年分の所得として課税するのはその原因を欠き、違法である。にもかかわらず、名古屋国税局及び東京国税局が、否認年度においては貸付金というあいまいな形で処理し、結局は、豊島税務署が昭和五一年三月分の賞与と認定するに至つたことは、行為計算否認についての適正を欠くものであるだけでなく、原告に対する貸付金とした当初の認定が不合理であることを意味するものである。

4  被告は、また、豊島税務署が右貸付金を賞与と認定したことを是認しているが、右賞与の認定も次のような点から不合理である。

(一) すなわち、被告は、サンライズ貿易の原告に対する本件旅費の損金性を否認した理由として、原告が同社の取締役でも従業員でもなく、また、業務の委任を受けたものでもなかつたことを挙げているが、右理由は、前記2の(一)に記載したとおり、本件旅費を原告に対する経済的利益供与として賞与認定する際には、原告が法人税法施行令七条一項規定の役員に該当すると判定していることと理論的に一貫性を欠くばかりでなく、こうした認定を認めることは、結局、本件旅費の損金性を否認して右金員につきサンライズ貿易に課税すると同時に、さらに、これを原告に対する賞与として原告に二重課税することを認める結果となり、不当である。

(二) また、被告が貸付金を賞与と認定するにあたつても、サンライズ貿易の代表取締役の意思を確認することなく、債権の回収を長期間放置しているとか黙示による債権放棄または債務免除があつたとかの独善的な判断をもつて経済的利益供与があつたとしているのも不当である。

(三) 被告は、さらに、サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費(昭和四六年四月一日から同四七年三月三一日事業年度否認分二七七万四、二五九円、同四七年四月一日から同四八年三月三一日事業年度否認分二四七万四、五〇〇円合計五二四万八、七五九円)を同社の昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度の法人税額等の更正通知書の「翌期首現在利益積立金額欄」に、原口厚生に対する貸付金三六三万円及びゼネラル貿易に対する貸付金五八〇万二、九〇〇円と合わせた合計一、四六八万一、六五九円の貸付金として計上しているが、このことは、被告が昭和五二年三月三一日現在においても右旅費を原告に対する貸付金として認めていることを意味するのであるから、右貸付金を同五一年三月分の賞与と認定したことは矛盾しているというべきである。

被告が、もし、右貸付金を否認して賞与と認定するのであれば、賞与と認定した金額を右積立金額の貸付金の金額から除外すべきであり、その場合、その計算の根拠は法人税法によるものであるから、その手続が適正に行われておれば、法人税の更正通知と同時に、積立金額欄の貸付金を変更すべき旨も通知されたはずである。にもかかわらず、本件において、源泉所得税の納税告知がなされ、その徴収、納付が終了した後になつても右貸付金がそのまま残存していたのは、源泉税調査官が右貸付金の処理について、法人税法上の適正な手続を踏まず、安易に所得税法を根拠とする源泉所得税の納税告知のみを行つた違法があるからである。

八  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告は、サンライズ貿易の原告に対する旅費支給の正当性の理由として、イ、原告は法人税法上の「役員」とみなされる「会長」または「オーナー」であること、ロ、原告及びその親族の持株が多いこと、ハ、サンライズ貿易の重要事項の意思決定は原告のもとに統轄され、原告は、執務は社長室を用い、乗用車も同社の最高級車を使用していること、ニ、同社から毎月高額の報酬を受けていること、ホ、本件旅費交通費の支給は、その出張先に関連会社があり、業務連携上の種々の用務があつたこと、などを挙げているが、これらの理由のうち、イないしニは、原告が実質的にサンライズ貿易の経営に従事していたことを裏付ける事実であるにとどまり、右旅費の支給が同社の業務のために必要であつたことを直接裏付けるものではない。このことは、原告がサンライズ貿易の経営に従事していたことをもつて、原告のすべての旅行を同社の業務に必要な旅行ということができないことからも明らかである。

また、ホのような理由が実際に存在したのであれば一応合理的な説明といえるが、原告の主張する関連会社たるゼネラル貿易及びオリエント貿易は、原告にとつては大株主としての深いつながりがあるにせよ、サンライズ貿易とは単に同じ大株主をもつ同業社にすぎないものであつて、これら関連会社の業務指導等のための諸費用を同社が負担する筋合いはないというべきである。特に、オリエント貿易は、昭和四七年一二月にその前身である株式会社豊栄の株式を原告ら個人が竹藤敦徳から買収し、その後昭和四八年一月五日オリエント貿易株式会社に商号変更したものであり、少くとも昭和四七年一二月までの同社についての指導及び買収の用務は、サンライズ貿易にも同社の関連会社にも関係のない原告個人の会社株式買収のための用務と考えられるから、これらの費用はサンライズ貿易を含む関連会社が負担すべきものではない。

2  また、原告は、本件旅費を否認するとしても、原告個人に対する貸付金とするのは妥当ではなく、関連会社に対する立替金として処理すべきであつたと主張するが、仮に、サンライズ貿易にとつて同社を含む関連会社間の経営に関する打ち合せ、統轄、連絡等が必要であり、原告の本件旅費がそのためのものであつたとすれば、同社においてその証拠を示すなり実情を話すなりして同社の業務のために必要であつた旨を合理的に説明し、右旅費を関連会社に対する立替金として処理したい旨申し出ることも可能であつたにもかかわらず、同社の経理部長らは、そうした説明も申し出もせず、原告個人に対する貸付金として処理する旨を申し出たのであつて、このことは、同社が本件旅費を検討した結果、同社とは無関係の費用であり、原告個人が負担すべきであると判断したからにほかならない。

また、同社が本件旅費について貸付金として処理することを選択した以上、右金額を昭和四六年及び同四七年度において原告の所得とすることは妥当とは考えられない。

なお、右旅費がサンライズ貿易を含む関連会社のために必要であつたとしても、その費用を同社一社が負担することは不合理であり、関連会社間で合理的な方法により配分すべきところ、本件においても、もし、そうした費用であれば、いつたんは原告に対する貸付金とし、その後関連会社からその負担分を徴収して右貸付金を精算することも可能であつたと考えられるにもかかわらず、同社がそうした措置をとらずに放置していたことは関連会社への立替金処分もできない事情が存在したのではないかと考えられる。

3  原告は、また、貸付金と認定された本件旅費五二四万八、七五九円がサンライズ貿易の法人税額等の更正通知書の「翌期首現在利益積立金額」欄に昭和五二年三月三一日現在まで計上されたままになつている点をとらえて、右貸付金を賞与と認定したことの合理性を攻撃するが、被告が右貸付金を賞与と判断した理由は、サンライズ貿易と原告との実質的な関係すなわち原告が実質上同社の経営に従事していたとの点及び実質的にみて貸付金の放棄がなされたとの点にあるのであるから、貸付金放棄後の同社の積立金額欄に貸付金が計上されていたとしても、右貸付金の放棄を賞与と認定した判断に直接関係するものではない。確かに、賞与認定がなされ源泉所得税の納税の告知がなされた後は、サンライズ貿易の積立金計算からは原告に対する右貸付金は除外されるべきものではあるが、申告納税制度の建て前からすれば、同社において右貸付金を除外する旨の申告をすべきものである。

第三証拠<省略>

理由

第一次的請求について

被告は、本案前の主張として、修正申告の無効確認を求める原告の第一次的請求は訴えの利益を欠き不適法である旨主張するので、まず、この点について判断する。

1  原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、被告に対し、別表(一)の「<ハ>修正申告」欄記載の金額を内容とする原告名義の修正申告書が提出された事実は、当事者間に争いがない。

2  ところで、右修正申告が原告の知らない間に提出されたものであるかどうかの点についての判断はさておき、そもそも、修正申告は、既に納税申告書を提出をした納税義務者が、その申告に係る税額が過少であることを理由として当該税額を修正するためにする納税申告の一種であつて、右申告により、新たに納付することになつた税額に係る納税義務を確定させ、その申告による納税債務の実現を図るものではあるが、その申告行為自体は、納税義務者と課税権者間の具体的租税債権債務関係を発生させるための前提たる一つの法律要件該当事実に過ぎず、右修正申告によつて当然に最終的な租税債権債務が決定されるものではない。

したがって、右修正申告の無効確認を求める訴えは、法律関係そのものの存否の確認を求めるものではないから訴えの利益を欠き不適法というべきである。

なお、修正申告を含めた納税申告は、被告の主張するとおり、いわゆる私人の公法行為といわれるものであつて、行政庁の公権力の行使といえないことはもとより、これと同視しうる場合にあたるともいえないことが明らかであるから、その申告の無効確認を求める訴えを、行政事件訴訟法三条四項に規定する「無効等確認の訴え」として適法なものと認めることもできないというべきである。

したがつて、右修正申告の無効確認を求める原告の第一次的請求は、その余の点について判断するまでもなく、不適法な訴えとして却下すべきである。

二 第二次的請求について

1 被告は、同じく本案前の主張として、原告の第二次的請求のうちの過少申告加算税の賦課決定処分(本件(一)の処分)の取消しを求める部分が国税通則法一一五条一項に定める不服申立前置の要件を欠き不適法である旨主張するので、この点について検討する。

(一)  原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、原告名義の修正申告書が提出され、被告が、同年七月九日、右修正申告書の内容に対応する増差税額一二三万三、六〇〇円について、本件(一)の処分を行い、同処分が同月一〇日原告に送達されたこと、原告が右処分に対し正式に異議申立てをしたのは、同年一一月一四日であつて、国税通則法七七条に定める異議申立期間(原則として処分があつたことを知つた日の翌日から起算して二月以内)を既に経過していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  ところで、国税通則法一一五条一項本文によれば、国税に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができるものにあつては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないとされており、本件(一)の処分は、右の異議申立てのできる処分に該当することが明らかであるから、一般的には、その取消しを求める訴えが適法であるためには、右処分に対し適法な異議申立てを行い、それについての決定を経たことを要するのはいうまでもない。したがつて、本件(一)の処分についても、その処分だけを独立に訴訟で争うのであれば、その処分についての異議申立てを右の異議申立期間内に適法に行う必要があり、それに違反して、後日、右処分の取消しを求める訴えを提起したとしても、その訴えは不服申立前置の要件を欠くものとして不適法といわなければならない。

(三)  ところが、本件においては、原告は、右処分の基礎となつた修正申告それ自体に対し、その申告が自己の知らない間になされたものであること等を理由に更正の請求をしており、その請求は、前記異議申立期間内である昭和五二年八月一〇日になされていること、その後、右更正の請求については同年九月一三日被告により更正をすべき理由がないとの処分(本件(二)の処分)がなされたが、原告は、同年一一月一四日、右処分に対し適法に異議申立てをするとともに、同日、前記本件(一)の処分についても合わせて異議申立てをしたこと、がそれぞ認められ(これらの点はいずれも当事者間に争いがない。)こうした経過に鑑みると、原告は、本件(一)の処分の基礎たる修正申告自体についての更正請求をしたことにより、納税申告が適正になされなかつた場合に課せられる制裁税の一種たる本件(一)の処分についても合わせてその是正を期待したことが推認されるから、同処分自体について事前に適法な異議申立てを経由しなかつたとしても、そのことをもつて直ちに国税通則法一一五条一項の不服申立前置主義に違反するものとはいえず、むしろ、同条一項三号後段の「決定又は裁決を経ないことに正当な理由があるとき」に該当するものと認めうるというべきである。

したがつて、本件(一)の処分の取消しを求める訴えが不適法であるとの被告の本案前の主張は、本件については採用することができず、同処分は、結局、その基礎たる修正申告に対する本件(二)の処分とともにその正当性の有無が判断されるべきである。

2 そこで、次に、被告が昭和五二年七月九日に行つた本件(一)の処分及び同年八月一〇日に行つた本件(二)の処分が正当であるかどうかについて検討する。

(一)  まず、請求原因2(第二次的請求)の(一)、(二)、(四)、(五)、(六)の各事実は当事者間に争いがない。

また、同2の(三)の事実のうち、昭和五二年六月二八日に原告名義の修正申告書が提出されたこと及び同2の(七)の事実のうち、被告が本件(一)及び(二)の各処分を行つた根拠が、サンライズ貿易の原告に対する本件旅費五二四万八、七五九円を同社の業務に関係がないとして否認し、結局原告の昭和五一年分の所得(給与所得)と認定した点にあることも当事者間に争いがない。

(二)  ところで、被告は、被告の主張4の(一)の(2)記載の理由により、本件旅費をサンライズ貿易の業務に関係がないとして否認し、右旅費に相当する金員を原告の昭和五一年分の給与所得と認定したが、原告が本件旅費支出の原因となつた福岡方面への旅行をしたこと自体は当事者間に争いがない事実であるところ、成立に争いのない甲第八、九号証、第一〇号証の一ないし八、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし六、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし三、第一七号証の一、二、第二一号証、証人下山弥寿男、同矢島醇一の各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告がサンライズ貿易の単なる株主にとどまらず、同社の「オーナー」または「会長」としてその実質的な経営に従事しており、同社から毎月三〇万円位の報酬を支給されていたこと、福岡方面に同社の支店出張所はなかつたが、福岡には同社を含む国内八社、海外二社からなる「朝日企業グループ」の構成会社であるゼネラル貿易、オリエント貿易等の関連会社があり、原告の福岡方面への旅行は、サンライズ貿易とこれら関係会社との連絡、関連会社の業務指導等のためのものであつたこと、サンライズ貿易とこれら関連会社は、一応、別個の会社ではあるが、同じ「朝日企業グループ」の構成員として、営業に必要な情報の交換、人事交流等を行つていたばかりでなく、資金の融資関係もあつたから、原告の関連会社への右のような用務は、単に関連会社の利益のためというだけではなく、サンライズ貿易にとつても直接または間接に利益をもたらすものであつたこと、がそれぞれ認められるから、これらの事実を総合すると、サンライズ貿易が原告に支出した右旅費は、一応、同社の業務に必要なものであつたと推認するのが相当であり、被告がその点についての判断を異にしてこれを原告の給与所得としたのは、旅費の必要性についての判断を誤り、原告の昭和五一年分の所得を過大に認定した違法があるというべきである。(もつとも、本件旅費の中には、昭和四七年一〇月一八日に支出された海外旅費四五万七、五〇〇円が含まれており、この旅費がサンライズ貿易にとつて業務上必要なものであつたかどうかは必ずしも明確でないが、本件弁論の全趣旨によれば、被告は、右旅費についても、福岡方面への旅費と同様、原告が同社の取締役または従業員でないことを主たる理由としてその業務との関連性を否認したことが推認されるから、既に判示したとおり、原告が同社の「オーナー」または「会長」としてその経営に従事していたことが認められる以上、被告が右のような理由に基づいてのみ右海外旅費を否認したのであれば、その認定はやはり不十分というべきであり、福岡方面への旅行に支出された金員と同様、右旅費を当然には原告の所得と認定することはできないというべきである。)

なお、被告は、本件旅費が業務上必要なものであつたとすれば、サンライズ貿易において実情を話すなどしてその必要性についての合理的な説明をすべきであつたのに、同社がそうした説明をせず、原告に対する貸付金として処理する旨を申し出たのは、右旅費が同社の業務と無関係のものであつた証左であると主張するが、仮に、サンライズ貿易がそうした処理を申し出た事実があるとしても、右のような申し出のなされたこと自体は、同社自身が貸付金としての処理を承諾していた事実を推認させるにとどまり、原告に対する関係においてまで右のような処理をしたことが当然適法視されるわけではない。したがつて、この点に関する被告の主張は採用できない。

3  以上の事実によれば、前記2の(二)に記載のとおり、本件旅費五二四万八、七五九円は、サンライズ貿易の業務に必要な旅費として支給されたと認めるのが相当であつて、その余の点について判断するまでもなく、右旅費を原告に対する貸付金とした名古屋及び東京国税局の判断並びに賞与とした豊島税務署の判断をそのまま是認し、原告の昭和五一年分の給与所得とした被告の認定には、原告の同年度の所得を過大に認定した違法があるというべきである。

したがつて、右認定を前提として行つた被告の本件(一)及び(二)の各処分が違法であることは明らかであり、右各処分の取消しを求める原告の第二次的請求は理由がある。

三 結論

よつて、原告の本訴請求のうち、第一次的請求は不適法としてこれを却下し、第二次的請求は理由があるものとしてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田和夫 寺尾洋 亀田廣美)

別表(二)<省略>

別表(一)

<イ>確定申告

(昭和五二年三月一五日)

<ロ>更正処分

(昭和五二年六月一五日)

<ハ>修正申告

(昭和五二年六月二八日)

<ニ>更正の請求

(<ハ>-<ロ>)

(昭和五二年八月一〇日)

配当所得の金額

五六、四七九、一三七

五五、八六四、九一九

同上

――

給与収入金額

五五、三五九、四三五

同上

六〇、六〇八、一九四

五、二四八、七五九

給与所得控除額

六、五八五、九四四

同上

七、一一〇、八二〇

五二四、八七六

給与所得の金額

四八、七七三、四九一

同上

五三、四九七、三七四

四、七二三、八八三

総所得金額合計

一〇五、二五二、六二八

一〇四、六三八、四一〇

一〇九、三六二、二九三

四、七二三、八八三

寄付金控除額

六五〇、〇〇〇

六三〇、〇〇〇

同上

――

右以外の控除額

六九三、二二〇

六九三、二二〇

同上

――

所得から差引かれる金額合計

一、三四三、二二〇

一、三二三、二二〇

同上

――

課税される所得金額

一〇三、九〇九、〇〇〇

一〇三、三一五、〇〇〇

一〇八、〇三九、〇〇〇

四、七二四、〇〇〇

右に対する税額

六三、六九一、七五〇

六三、二四六、二五〇

六六、七八九、二五〇

三、五四三、〇〇〇

配当控除額

二、八二三、九五六

二、七九三、二四五

同上

――

差引所得税額

六〇、八六七、七九四

六〇、四五三、〇〇五

六三、九九六、〇〇五

三、五四三、〇〇〇

源泉徴収税額

二八、三〇六、五三七

二八、三〇六、五三七

三〇、六一五、九九〇

二、三〇九、四五三

納付すべき税額

三二、五六一、二〇〇

三二、一四六、四〇〇

三三、三八〇、〇〇〇

一、二三三、六〇〇

過少申告加算税

(昭和五二年七月九日)

六一、六〇〇

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